1947年に制定された労働基準法は、会社員など労働者を保護するための法律です。
では法律上、労働者とみなされないフリーランスのことは、何が守ってくれるのでしょうか?
今回はフリーランスにとって労働基準法の代わりになる法律を解説します。
「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」とは
「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」は文字通り、フリーランスが安心して働ける社会を目指すことを目的に、以下の関係省庁から発表されました。
- 内閣官房
- 公正取引委員会
- 中小企業庁
- 厚生労働省
フリーランスにとって労働基準法の代わりになる法律のことや、その法律上問題となる行為など、フリーランスが安心して働くために知っておくべき内容が記載されています。
※いずれもPDFで開きます
フリーランスを守る法律
フリーランスが事業者と取引をする際、以下の法律が適用されます。(一部条件付き)
- 独占禁止法
全フリーランス対象 - 下請法
資本金が1,000万円以上の事業者と取引するフリーランス対象 - 労働法
働き方の実態が「労働者」とみなされたフリーランス対象
まずは多くのフリーランスに関係する「独占禁止法」と「下請法」について解説します。
独占禁止法
https://unsplash.com/photos/v8IbdsPXo7U
正しくは「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」といいます。
この法律は、「事業者による公正で自由な競争の促進」を目的に制定されました。
競争を妨げる行為や不正取引、また不公平な取引を禁止することで、経済全体が潤滑に回るようにするのが目的です。
この法律があることによって、事業者側と消費者側には以下のようなメリットが生まれます。
- 事業者
「安くて優れた商品」を作り、それを販売することで利益を上げられる - 消費者
さまざまな価格の中から「自分のニーズに合った商品」を自由に選べる
こうした公正かつ自由な競争を妨げないよう、独占禁止法では以下の内容が禁止/規制されています。
- 私的独占の禁止
- 不当な取引制限(カルテル)の禁止
- 事業者団体の規制
- 企業結合の規制
- 独占的状態の規制
- 不公正な取引方法の禁止
たとえば全国各地のリンゴ販売業者が集まって、「今後リンゴは1個あたり100円で販売する」ことを決めたとしましょう。
こうすることで、先ほど例に挙げたような販売業者間の競争がなくなってしまいます。
独占禁止法では、このような「不当な取引制限」を禁止しているのです。
下請法
https://unsplash.com/photos/9OWS4lT5iqQ
正しくは「下請代金支払遅延等防止法」といい、先ほど解説した独占禁止法を補完する役割を持っています。
下請法が適用される取引は、以下の4つです。
- 製造委託
- 修理委託
- 情報成果物作成委託
- 役務提供委託
独占禁止法が主に事業者同士(横のつながり)の行為を規制する法律であるのに対し、下請法は規模の大きい事業者が規模の小さい事業者へ発注する場合(縦のつながり)に適用されます。
独占禁止法・下請法とフリーランスの関係
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これらの法律は、大きな企業からフリーランスに業務の依頼があった際、立場の弱いフリーランス側が不利益を被らないように保護してくれるものです。
フリーランスが事業者と取引をおこなう場合、両者の間には上下関係が生まれ、ほとんどの場合事業者の方が優位的な立場にあります。
その結果、弱い立場のフリーランスが不利益を被るリスクがあるのです。
- 強者の立場である事業者が、その力を利用してフリーランスの「自由かつ自主的な判断」を阻害すること
- 弱者側のフリーランスにとって不利な条件で取引すること
独占禁止法・下請法は上記のような「優位的地位の濫用」を規制し、フリーランスを守ってくれます。
雇用関係はなくても「労働者」と認められるケースがある!?
フリーランスは企業と雇用関係を結ばないため「労働者」とはみなされません。
しかし条件を満たす※ことで、労働基準法上の「労働者」と認められる場合があるのです。
判断基準の一部をご紹介します。
- 始業時間/終業時間を指定されていて、業務開始に遅れるとその分報酬が減らされる
- そのクライアントから受ける仕事量が多く、他のクライアントの仕事を受けられない
- 報酬が時給で支払われる
- 業務遂行に関してクライアントから細かに指示出し・管理される
- 依頼されている以外の業務を命令されたりする
※上記当てはまれば必ず労働者と認められるわけではありません。契約内容も含め複数の要素をもとに判断されます。基準はガイドラインを参照してください。
労働者とみなされた場合、労働関係の法令の保護を受けます。
- 労働基準法の労働時間や賃金などのルール
- 労働安全衛生法・労働契約法なども基本的には適用
請負契約では「納品」が成果。クライアントの業務時間以外でも成果物の作成ができるかどうか、がポイントでしょうか。
独占禁止法・下請法に違反する可能性がある事例
ここからはガイドラインに記載されている内容をもとに、法律違反の可能性がある事例をご紹介します。
※以下で紹介する事例はすべて、依頼を受けたフリーランス側が不備なく業務を完遂している事を前提にしています。
報酬の支払いに関する事例
https://unsplash.com/photos/mQTTDA_kY_
報酬に関するトラブルは、以下のようなものが考えられます。
- 支払期日を過ぎているのに報酬が支払われない
- 契約後に報酬額を減額された
- 追加作業の依頼に応えたのに報酬が変わらない
- 報酬額が明らかに低すぎる
成果物に関する事例
https://unsplash.com/photos/5u5IQyQdfkM
クライアントに納品した成果物に関するトラブルは、以下のようなものが考えられます。
- 契約通りに完成させたあとに仕様変更/修正を強制される
- クライアント側の都合で成果物の受け取りを拒否される
- 著作権の扱いをクライアント側が一方的に決定する
契約に関する事例
https://unsplash.com/photos/SkFdmKGxQ4
契約そのものや、その内容に関するトラブルは、以下のようなものが考えられます。
- 一方的に発注を取り消され、それまでに進めていた分の報酬が支払われない
- 業務に不要な商品の購入を指示される
- 契約範囲外の業務を無償で依頼される
トラブルへの対処法
何かトラブルが起きても、フリーランスは自分で自分の身を守らなければなりません。
そのために欠かせないのが、書面の交付です。
発注時に取引内容を明確にした書面を交付しないことは、独占禁止法・下請法において違法に当たります(発注時点で交付できない正当な理由がある場合を除く)。
フリーランスがトラブルに巻き込まれないようにするためには、書面上でさまざまな条件を明確にしておくことが重要です。
- 書面において取引条件を明確にしておく
- 契約形態が請負なのか委任なのか、はっきりさせておく
請負(業務の完成、成果物に責任がある状態)と委任(業務の遂行に責任がある状態)については以下の記事で解説しています。
書面を発行すればいい、ということではありません。
認識違いが起こるような書面の内容では、業務開始後のトラブルリスクが高まります。
書面の雛型はガイドラインに添付されています。
手元にある契約書類やこれからサインする書類に、記載すべき事項が含まれているか、ご自身でチェックしてみましょう!
困ったときは1人で抱え込まない!フリーランス・トラブル110番とは
フリーランス・トラブル110番はフリーランス向けの相談窓口です。
契約や仕事上のトラブルが発生した際、第二東京弁護士会に所属する弁護士に無料で相談できます。
この窓口は内閣官房をはじめ、フリーランスに関係する省庁と連携しながら運営されています。
匿名での相談、電話やメールでの相談など、気軽に利用できるのが魅力。
契約や報酬に関する内容に限らず、クライアントからのハラスメント行為や損害賠償請求など、幅広い悩み相談に対応してもらえます。
トラブルを事前に回避できなかったときや、対応しきれないトラブルが起きたとき、自分1人で抱え込む必要はありません。
自分自身の身を守るために知識をつけることはもちろん重要ですが、トラブル解決のためにはこうした専門機関の力にも頼りましょう。