年々増加傾向にあるフリーランス人口。
政府が発表した資料※によると、2020年時点で約460万人超がフリーランスとして働いています。
人口の増加に伴い、仕事内容や報酬にまつわるトラブルも後を絶ちません。
比較的弱い立場にあるフリーランスを保護するため、政府は秋の臨時国会で新たな法律の制定を目指しています。
今回は新法の内容や、制定により期待できる変化、また現時点で想定されるネガティブな側面などを現役フリーランス視点でお伝えします!
※フリーランス実態調査結果/内閣官房日本経済再生総合事務局 令和2年5月資料(PDF)
法律制定の目的

2022年9月に発表されたパブリックコメントでは、新法の方向性について以下のように説明されています。
- フリーランスの取引を適正化すること
- 個人がフリーランスとして安定的に働ける環境を整備すること
具体的には、不当な契約によるトラブルを防止すること、そして弱い立場に置かれがちなフリーランスを法的に保護することを目的にしていると読み取れます。
加えて、これまでにはなかった各種ハラスメントへの対策・出産や育児への配慮についても検討しているようです。
新法の内容
2022年11月現在、まだ新法の詳細は明らかにされていません。
ここではすでに発表されている資料※から、新法に盛り込まれるであろう内容を紹介します。
※フリーランスに係る取引適正化のための法制度の方向性/2022年9月 内閣官房発表(PDF)

発注者側が守るべき事項
発注者(業務を委託する側)に遵守を求める事項が複数挙がっています。
- 契約時
- 契約解除時
- 募集時
- 報酬について
- 事業者が取り組む事項
- その他の禁止事項
この6項目に分けて確認してみましょう。
①契約時
フリーランスに業務を委託するときは、書面またはメールなどの電磁的記録を残さなければなりません。
記載が求められているのは、以下の項目です。
- 単発の業務依頼:業務委託の内容・報酬など
- 継続の業務依頼:上記内容に加えて、契約期間や契約終了の事由、契約の途中終了に際して発生する費用など
②契約解除時
期間の定めがある契約において、その契約を途中で解除する場合や満了後に契約を継続しない場合には、以下の2点が求められます。
- 契約解除日または契約期間満了日の30日前までに予告する
- 受注者側が解除の理由を求めた場合は明らかにする
つまり「今日から仕事打ち切りです」という突然の契約解除は禁止されます。
解除理由を「明らかにする」点については、理由の妥当性・正当性は問われないのか、気になるところです。
③募集時
フリーランスを募集する際には、契約書記載の業務内容等と募集要項の業務内容等が同一であることが求められます。
- 募集要項:既存サイトの改修や新機能実装作業
- 契約書:既存サイトの改修や新機能実装作業・新規サイト構築
また受注者側が誤解するような表現や、事実と異なる内容を記載しないよう、常に最新・正確な情報へ更新し続けなければなりません。
仮に募集要項と異なる業務を委託する場合には、その旨を受注者にきちんと説明すること、としています。
④報酬について
発注者側は、役務提供日から60日以内に報酬を支払わなければなりません。
「役務提供日」の解釈もまた難しいので、明文化が望まれます。
⑤事業者が取り組む事項
ハラスメント行為に対して適切に対応できるよう、体制を整える必要があります。
また出産・育児・介護に関する相談があった場合には、フリーランスが業務と両立できるよう、就業内容や条件などに配慮しなければなりません。
ハラスメントについては、ハラスメントを受けたフリーランスが声を上にくい点が大きな問題です。
声を上げられる仕組み・声を上げたことで不当な扱いを受けない仕組みができれば、グンと働きやすくなりますね。
⑥その他の禁止事項
上記の5項目以外に、以下の内容が禁止されます。
- フリーランスの責めに帰すべき理由がないにもかかわらず、
受領の拒否・報酬の減額・返品をおこなったり、内容の変更ややり直しを命じること - 相場よりも著しく低い報酬額を設定すること
- 正当な理由がない物品購入などを強制すること
- 金銭や役務など経済上の利益を提供させること

違反時の罰則
明確な罰則は記されていません。
ただし「行政上の措置として助言、指導、勧告、公表、命令を行う」と記されています。
これがどこまでの力を持つのか、今のところ不透明ですね。

制定前後で何が変わるのか
フリーランスを保護するための法律といえば、独占禁止法や下請法がよく知られています。
今回の新法は、これまでに適用されていた法律と何が違うのでしょうか。
適用範囲が拡大

現在の下請法ではカバーできていなかった範囲まで、法が適用される可能性があります。
下請法が適用されるのは、以下4つの下請取引に限定されています。
- 製造委託
- 修理委託
- 情報成果物作成委託
- 役務提供委託
また、法律が適用されるか否かを判断するためには、資本金額も重要な要素です。
取引内容によって金額は異なりますが、最も低いもので「委託する側の資本金が1千万1円以上」と定められています。
しかし実際には資本金が1千万円を超えない企業との取引や、フリーランス同士での取引があったりと、下請法が適用されないケースが多々あるはずです。
今回の新法では、従来の下請法ではカバーできなかった取引についても、規制を適用する方向で検討されています。
またフリーランスの定義自体も見直される可能性があり、保護範囲の拡大が期待できます。
フリーランスにとって不利な取引を減らせる可能性も

これまで契約書が不要だった個人間の取引や、口約束による業務委託についても、基本的には契約書を交わすことが求められます。
これによって合意のない業務の委託や一方的な契約内容の変更、業務に関する認識の相違などを防ぐことができるでしょう。
曖昧な契約がなくなれば、業務を請け負うフリーランスが一方的にダメージを負うことも少なくなります。

新法成立により生じるかもしれないデメリット
フリーランス保護新法の制定には大きな期待が寄せられている一方で、懸念されている事項もいくつかあります。
特に受託側・フリーランス側にとって気になるのは、案件の減少や解約のリスクが増えるのではないかという点。
規模が小さい事業者にとっては負担が大きい

書面作成にかかる発注者側の負担が大きくなることが挙げられます。
特に小規模事業者の負担が大きくなるかもしれません。
新法の適用範囲が「資本金に関わらず全ての取引」に拡大された場合、必要事項を漏れなく記載した書面の交付が全発注者に求められます。
発注者がフリーランスなど小規模事業者の場合、簡単なメッセージのやり取りや口約束で行っていた取引が、新法制定後はNGになるのです。
フリーランスへの発注控えが発生する

先述のとおり、発注者側には事務的な負担がかかります。契約書の発行には金銭負担も生じるはずです。
どんな相手に発注しても同じ手間がかかるのであれば、法人への発注に切り替える発注者もいるでしょう。
「手軽さ」を理由にフリーランスと取引していた発注者は、フリーランスに対して発注を控える可能性があります。
新法が機能しない可能性がある

新たな法律が制定されても、違反を取り締まる機関が新たに設置されるわけではありません。
トラブルがあったとき、それを申告するのはフリーランス自身です。
- 申告したら契約を継続してもらえないかもしれない
- 仕事がやりにくくなるかもしれない
契約継続や業務遂行に対する不安感から、フリーランスが泣き寝入りするケースが増える可能性があります。
トラブルが露見しなければその発注者は「遵法」とみなされ、状況の改善からは遠ざかってしまうでしょう。
これに加え、違反に対する罰則の有無には触れておらず、現時点で「助言、指導、勧告、公表、命令」としか記されていません。
罰金などがあるわけではないので、法律の強制力についてもやや不安が残ります。
助言や指導などはトラブルが起きた後に求められること。罰則にはトラブル抑止の力があるのではないでしょうか。

インボイス制度との関係は?
2023年10月からは、インボイス制度が導入されます。
現時点では、新法制定によるインボイス制度へのネガティブな影響はない、と考えて良さそうです。
インボイス制度自体の懸念事項として「インボイスを発行できないフリーランスを対象にした報酬の引き下げ」が考えられます。
引き下げの交渉自体は違反にあたりませんが、たとえば請求時の急な報酬減額は規制対象になります。
新法が制定されればこうしたトラブルが避けられるため、むしろ新法制定はポジティブな影響を与えるといえそうです。

どうなる?フリーランス保護新法
法案を提出する秋の臨時国会は、2022年10月3日から12月10日にかけて開かれています。
国会開始前に設けられた任意の意見募集期間(9月13日〜9月27日)には622もの意見が寄せられており、この数字からも新法への注目度の高さが窺えます。
制定によりフリーランスの待遇改善が期待できる一方で、発注控えなどフリーランスがかえって不利になる可能性も懸念されているこの新法。
一体どのような内容になるのか、今後の展開から目が離せません。