著作権は、クリエイティブ系フリーランスと深い関わりがある制度であり、著作権法で保護されています。
自分は「ちょっとしたトラブル」だと感じても、法律が絡んでいる以上その解釈は人それぞれ。
まずは私たちフリーランスが著作権について正しい知識を持ち、そもそもトラブルに巻き込まれないようにする必要があります。
「他人の著作物をコピペしていないから大丈夫」「少しマネしただけだから」が大きなトラブルの引き金になることも……。
今回はフリーランスが自分の身を守るために知っておきたい「著作権の基本」と、著作物の利用者・権利者としての注意点を、具体的な事例とともに考えてみましょう!
著作権・著作物・著作者を理解しよう
著作権とは、著作物をつくった人が持つ権利です。著作物を作った人は著作者と呼ばれます。
著作者が作った著作物に関する「著作者の権利」を保護する法律が著作権法です。
この2行だけで複雑ですね……。
- 著作物・著作者
- 譲れる著作権(財産権)・譲れない著作者人格権
まずはこの2項目について「著作者」の立場で理解を深めましょう!
著作物には権利が発生+著作者が権利を持つ
文化庁は「以下の条件をすべて満たしたものが著作物」であると明記しています。
(1)「思想又は感情」を表現したものであること
著作物について|文化庁ホームページ
(2)思想又は感情を「表現したもの」であること
(3)思想又は感情を「創作的」に表現したものであること
(4)「文芸,学術,美術又は音楽の範囲」に属するものであること
たとえば「アイデア」は著作物ではありません。それが何かの形(無形でもOK)で「表現」されたら著作物です。データベースのように「思想や感情」が含まれないものは著作物ではありません。
4つの条件をすべて満たしていれば、著作者の知名度・年齢・作品の巧拙などには一切影響されず、等しく権利が発生します。
それでは「著作者」とは何なのでしょうか。
著作物
- 文学的なもの:小説・脚本・俳句・詩など
- 学術的なもの:論文・講演・地図・図面など
- 芸術的なもの:絵画や版画などの作品・写真・映像作品・建造物など
- 音楽的なもの:楽曲・楽曲の歌詞など
- 編集されたもの:雑誌・新聞など
著作者
著作物を創作した人
つまり筆者のようなWebライターも個人でアクセサリーを作るハンドメイド作家も、有名なミュージシャンも、著作物を作る人は誰もが著作者です。
クリエイティブや芸術・映像制作などに携わるフリーランスは全体の5割超※。多くのフリーランスが日常的に著作権と関わりながら働いています。
譲れる著作権・譲れない著作者人格権
「著作権」は2つの権利に枝分かれします。両者の決定的な違いは「著作者以外に譲渡できるか否か」です。
- 著作権(財産権):譲れる著作権
- 著作者人格権:譲れない著作権
譲れる著作権(財産権)
著作者は自分の著作物を「財産」として所有したり、他者に権利を譲渡したりできます。これが著作権(財産権)です。
たとえばWebデザイナーが広告バナーを作り、その著作権(財産権)をクライアントに譲渡し、クライアントはバナーを使って利益を得る。まさに「財」を「産む」権利を譲った形になりますね。
譲渡できる著作権(財産権)は全部で11種類! ご自身が仕事で生み出す著作物はどれに相当するのか、ぜひご確認ください。
譲れない著作者人格権
クライアントに成果物を納品したら自分には何の権利もない、と思っていませんか?
著作権(財産権)を誰かに譲っても、著作者の手元には「著作者人格権」が永久に残ります。この権利は私たち著作者の心・意志を守る権利です。
- 著作物の公表可否や時期・公表方法を決める権利
- 著作者名の表示を決める権利
- 著作物を意図しない形で修正・利用されない権利
著作者人格権は他人に譲渡できず、権利者が死亡するまで継続します。
著作物をどう扱ってほしいか、どう扱ってほしくないか、という私たちの意志が反映できる権利にもかかわらず、立場が弱いフリーランスはなかなか主張しにくい権利でもあります。
利用者として|著作物を利用する時の注意と具体例
私たちフリーランスは他者の著作物を参考にしたり、そこから着想を得たり、あるいは利用したりして仕事の質を高めています。
その際、利用規約には目を通していますか? 利用条件を守っていますか?
- フリー素材の利用
- 情報のリサーチ
- AIで作られたコンテンツの利用
上記3つの作業を例に取り、他者の著作権を侵害しないための注意点を探っていきます。
フリー素材
筆者は執筆とともに原稿内に挿入する画像の選定も請け負っており、クライアントの指定がなければ「フリー素材」と呼ばれる画像を使用しています。
無料で気軽に使える「フリー素材」、実は著作権侵害のリスクが潜んでいるのです。
フリー素材は著作者の許可を取らずに使用できますが、利用条件がついていることもあります。たとえば……。
- 配布元のリンクを必ず掲載する
- 素材を販売、商品化してはならない
- 加工してはならない
- 個人利用のみ無料、商用利用は有料 など
フリー素材は著作権を放棄しているのではなく「条件付きの使用を許諾している」状態です。そのため利用条件を守らず素材を使用すると、著作権侵害で訴えられる可能性があります。
写真やイラスト・音楽・動画素材などを利用しているかたは、今一度利用条件を確認しておきましょう!
情報のリサーチ
筆者をはじめとするWebライターはもちろん、執筆以外の仕事でも外部情報の一部を「ファクト(事実)」として記載することはありませんか?
これ自体は違法行為ではないものの、やり方や程度を間違えると著作権侵害に該当するかもしれません。
他者の著作物の一部をそのまま使いたい場合は引用
文献やWeb記事など著作物の内容をそのまま使う方法として「引用」が認められています。
代表的な引用のルールは以下のとおりです。
- 引用部分とそれ以外を明確に区分する
例)引用部分に鉤括弧をつける・書体を変える など - どこから引用したのか出所を明記する
例)引用元:○○〜/出典:○○〜 - 自分の文章が主役で引用は補助という「主従関係」を量・内容などで明らかにする
引用は著作権法で認められている合法的なやり方ですが、ルールを守らなければ当然違法になってしまいます。
他者の著作物を参考にしたい場合は自分の言葉で表現
他者の著作物を参考にしながら「自分の考え」として記載する場合は、著作物の内容を自分の中でしっかりと噛み砕いて理解し、自分の言葉で表現しましょう。
筆者がライターとして関わっているクライアントは常日頃から「自分の言葉で書く」ことをライターに求めています。
他者の著作物の語尾や「てにをは」を変えるだけで「自分の考え」として記載すると、著作権侵害に該当する恐れがあるからです。
AIによって作られたコンテンツ
AIによる自動生成コンテンツの著作権はAIが持つのでしょうか。現行法ではAIが生成したコンテンツに著作権は発生しないとされています。
AIコンテンツには思想や感情が含まれない=著作物ではないとみなされているわけです。
ただしAIが関与するコンテンツのすべてに著作権が発生しないわけではありません。
例)AIの力を借りたイラスト
自分で描いたイラストに対してAIによる自動補正ツールを使った場合、イラスト自体は思想や感情を表現する「著作物」ですから描いた人には著作権が発生します。
例)AIを動かすプロンプトにオリジナリティがある場合
AIを動かす呪文「プロンプト」がどのようなものかによって、著作権発生の有無が変わるようです。
たとえば誰でも思い付く短いプロンプトで生成されたコンテンツには著作権が発生しません。しかしプロンプトのオリジナリティが高いと著作権が発生する、という解釈です。
このように、現時点ではAI生成コンテンツの著作権についての明確な基準はありません。当面の間、AIコンテンツの利用・参照は慎重に行い、グレーゾーンには近付かないほうがよさそうですね。
利用者として|著作権を侵害するとどうなるか
著作権は著作権法という法律で守られています。権利を侵害すれば法律違反であり、(許可なく利用できる場合を除き)著作物を無断で使用する行為は犯罪です。
他者の著作権を侵害した場合、民事・刑事ふたつの責任が生じます。
民事責任
著作者から侵害行為を止めるよう請求される・損害賠償を請求される、などが考えられます。
刑事責任
著作者が告訴すると刑事罰が科せられる可能性があります。
刑事責任を問われた場合、懲役と罰金が同時に課されることもあります。
- 著作権・出版権・著作隣接権侵害:10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金
- 著作者人格権の侵害:5年以下の懲役または500万円以下の罰金
「そんな法律は知らなかった」「クライアントに頼まれたから」は通用しません。
著作物を利用する時は、著作者が持つ権利・自分が持つ権利とその範囲を正しく理解し、他者の著作権を侵害しないよう十分注意しましょう。
著作者として|著作権に関する契約のチェックポイント
私たちフリーランスは他者の著作物を利用するだけでなく、自分が著作者として著作物を制作することもあります。
ここからは「著作者」の視点で著作権を深掘りしていきましょう!
皆さんの納品物が著作物に該当する場合、著作権(財産権)は自分に残るのかクライアントへ渡すのか、理解していますか?
「どうだったかな」と感じたかたは今すぐ契約書を開いてみてください!
- 著作権の譲渡と譲渡範囲について確認
- 著作者人格権についての記述を確認!
著作権の譲渡と譲渡範囲について確認
著作権の譲渡は、権利のすべてを譲渡・一部の権利だけを譲渡の2パターンがあります。
通常は契約書を見ればどちらのパターンで契約しているかがわかるので、確認してみましょう。以下は契約書の記載例です。
すべての権利を譲渡する場合
著作者人格権以外の権利すべてを譲渡する場合、契約書の記載はさらに2パターンに分かれます。
※甲がクライアント、乙がフリーランスと仮定
記載例1
乙は、作成した成果物のすべての著作権を甲へ譲渡する。
記載例2
乙は、作成した成果物のすべての著作権(著作権法第27条および28条の権利を含む)を甲へ譲渡する。
記載例1には「すべての著作権」と記載していますが、実は以下の2つの権利は譲渡されません。
- 第27条:翻訳権・翻案権
- 第28条:二次的著作物の利用に関する原著作者の権利
この2つを含めた11つの著作権(財産権)すべての譲渡が求められる場合、記載例2のように「著作権法第27条および28条の権利を含む」ことが明示されています。
一部の権利だけを譲渡する場合
以下は著作権の一部だけを他者へ譲渡する場合の記載例です。
記載例
乙は、作成した成果物の著作権のうち、複製権を甲へ譲渡する。
譲渡する権利を明示すれば、その権利に限った譲渡契約が締結できます。
著作者人格権についての記述を確認!
著作権を譲渡しても著作者人格権は残るため、たとえば著作物に無断で修正を加えられたら「著作者人格権の侵害」を訴えることができます。
しかし契約書の内容によっては「訴える権利を制限」されているかもしれません。以下のような記述を探してみましょう。
記載例1
乙は著作者人格権を一切行使しないものとする。
記載例2
乙は著作者人格権を行使しないことを承諾する。
このように明記されていた場合、著作者人格権は主張できません。
主張できなくても著作者人格権は譲渡していません。そのため、著作物の利用によってフリーランスの名誉が傷付くようなことがあれば著作者人格権侵害に該当する可能性もあります。
著作者として|著作権の譲渡と利用許諾
筆者がクライアントと締結した契約書を総ざらいしてみると、ほとんどが「著作権譲渡」の契約でした。しかし著作権は譲渡・非譲渡以外にもう一つ「利用許諾」という選択肢があります。
利用許諾契約は一般的に「ライセンス契約」と呼ばれるものです。
- 譲渡
→著作権をクライアントに譲渡し、クライアントの力でより多くの人に広めてもらう - 利用許諾
→著作権は譲渡せず、クライアントに使ってもらいながら活用の場を自分でも広げたい
フリーランスが成果物の著作権を譲渡するとどうなるか、利用許諾するとどうなるのか、具体例を交えながらご紹介します。
フリーランスWebライターのAさん
Aさんはおにぎりについての記事を執筆しています。おにぎりの専門家として高く評価され、2社から執筆の打診がありました。
- M社:著作権譲渡契約を希望
→業界最大手「おにぎりWEB」を運営 - N社:著作物の利用許諾契約を希望
→新進気鋭「おこめ通信」を運営 - Aさん:できればM社・N社双方のメディアと自分のサイトにも原稿を掲載したい
Aさんは自身の希望を叶えるためにどのような契約をしたのでしょうか。
M社に著作権を譲渡した場合
M社との契約内容は「著作権の譲渡+著作者人格権の不行使」が明記されていました。
Aさんが「美味しいおにぎりの握り方」という記事を執筆してM社に納品した場合、Aさんが原稿を自由に扱う権利はなくなり、できないことが増えます。
Aさんが「できないこと」
- 【NG】「美味しいおにぎりの握り方」をAさん自身のブログに掲載する
- 【NG】タイトルが「プロに聞いた!美味しいおにぎりを握るコツ」に変更されたのでM社に異議申し立て
- 【NG】Z社がAさんに無断で原稿を複製・公開したから訴える
著作権を持っているのはM社です。そのためM社に許可を取らず原稿をブログに掲載すると、自分自身が著作権を侵害したことになってしまうのです。
また著作権譲渡後にZ社が「Aさんに」無断で原稿を複製・公開しても、AさんはZ社を訴えることができません。
M社がZ社に原稿を貸し出したとしても何も言えないのです。
N社と利用許諾契約を締結した場合
利用許諾契約を締結した場合、著作権を持つのはAさんです。N社は契約の範囲内で自由に「美味しいおにぎりの握り方」の記事が利用できます。
Aさんが「できること」
- 「美味しいおにぎりの握り方」をAさん自身のブログに掲載する
- タイトルが「プロに聞いた!美味しいおにぎりを握るコツ」に変更されたのでN社に異議申し立て
- Z社がAさんに無断で原稿を複製・公開したから訴える
原稿に最新情報を追記しても問題ありません。納品した原稿を自由に利用できるということです。
実はAさんとN社の間で締結した利用許諾契約は「独占的利用許諾」と呼ばれるものでした。この場合は著作権者のAさんに許諾されたN社だけが独占的に記事を利用できます。
しかしAさんはできるだけたくさんのメディアに原稿を掲載したいと思っているため、M社・N社に契約変更を持ちかけました。
非独占的利用許諾契約を締結した場合
AさんはM社・N社に「非独占的利用許諾」契約を持ちかけました。
これを締結すると、いずれの会社も原稿を利用できる状態になります。
- M社「おにぎりWEB」に掲載
- N社「おこめ通信」に掲載
- Aさんのブログに掲載
もちろん著作権はAさんにあります。そのためM社がZ社に原稿を渡すのはNG。Z社はAさんと「非独占的利用許諾契約」を締結すれば原稿が扱えるようになります。
例に挙げたAさんの契約内容はかなりシンプルですが、実際はもっと複雑でわかりにくい部分がたくさんあります。
クライアントは自社有利の条件を提示することがほとんどですので「こう書いてあるから大丈夫」と鵜呑みにせず、契約書は隅々まで確認し、不明点を解決してから契約してくださいね。
「著作権の譲渡」は絶対条件ではない!
「著作物の権利はクライアントに譲渡するのが当たり前」と誤解しがちです。実はライターを始めたばかりの頃の筆者もそうでした。
しかし実際は譲渡以外に「利用許諾」という契約方法があります。著作権を譲渡したくなければ、クライアントへ交渉しても問題ありません。
正しい知識があれば、自分が一方的に不利益を被るリスクが低減できます。同時に、自分が知らぬ間に加害者になることも避けられるでしょう。
「自分の身は自分で守る」ことが基本のフリーランスだからこそ、著作権についてしっかり学んでおくことをおすすめします!