会社側はなぜ管理ツールという名の「監視ツール」を導入するのか。
導入の目的や取得したデータの行方を知らないと、監視ツールに対する不安は増大していきます。
今回はテレワークの管理ツール・監視ツールがなぜ社員に不安を与えるのか、そして不安を解消するためにできることを考えます。
勤怠管理ツールの「監視機能」
テレワーク移行にともない、多くの企業が新たな勤怠管理ツールを導入しました。
勤怠管理ツールは、社員の働きすぎの抑止や連絡不通による異常の発見、さまざまなメリットがあります。しかしそれを理解している社員は多くありません。
勤怠管理ツールは勤怠「監視」ツール。このイメージが先行しています。
勤怠管理ツールに搭載されている代表的な「監視」機能を調べてみました。
- 離着席ステータス表示
- Webカメラ常時接続
- PC操作ログ取得
- ネットアクセスログ取得
PC操作がない状態が5分続くとステータスが「離席」に切り替わるのが、Microsoft Teamsですね。
この他、ステータスを社員自らが変更できるツールもあります。
Webカメラを常時オンにしておき、在席を確認するツールもあるとのこと……。
PCの操作ログは、マウス操作やキーボードの入力ログ、画面キャプチャ撮影など多岐にわたります。
また、業務ソフトウエアの稼働状況を監視するツールもあるそうです。
ネットワーク監視は、セキュリティ上必要なもの。しかし社員の働きぶり監視が目的となると、不快に感じてしまいます。
仕事と無関係な検索をしていないか、ブラウザゲームに興じていないか、といったことも当然監視できるわけです。
「あの行動もこの行動も、サボりだと思われているのでは……」
真面目に働いている人ほど、こうした不安に苛まれます。
社員が全社ツールによる監視を拒否することは難しいそうです。
「サボり」は在宅とオフィスで異なる
PC操作が5分間検知できないと「離席」と表示されるツール。これを前提に考えてみます。
5分以上の離席=サボりという安直な判断をする企業はありません。しかし社員は「そう思われるのではないか」と不安になるわけです。
なぜなら、曖昧さを一切排除したコンピュータによる監視が行われているから。
出社時は気にしていなかった行動が「もしかすると……」の不安を煽り、ストレスを増大させます。
テレワーカーが「サボりかもしれない」と感じる行動には、どういったものがあるのでしょうか。
テレワーカーが考えるサボり
マイナビニュースによる2020年10月の調査(調査数181名)では、テレワーク中のサボり経験者が7割以上との結果が出ています。
しかし、どのようにサボったのか確認してみると、「サボり経験者7割以上」の数字を鵜呑みにできないことがわかりました。
サボりの内容について具体的に聞いてみると、「動画サイトを視聴していた」「漫画を読んだりゲームしていた」「昼寝した」など明らかに業務と関係ないもの、「お菓子を食べてしまった」「コーヒーブレイク」など会社によっては問題にしないものや、「子どもが泣いてしまったので面倒を見ていた」など致し方ないと思えるものまでさまざまです。
マイナビニュース https://news.mynavi.jp/
さすがに動画視聴やゲームはサボりでしょう。しかし監視ツールはこれを「サボり」と見抜けません。
自宅用PCで動画視聴しながら仕事用PCのマウスを動かしていたら、監視ツールは「仕事中」と判断します。
在宅勤務によって家庭保育を余儀なくされた家庭では、子どもの世話による離席が少なからず発生します。
これを「致し方ない」と考えるかどうかは企業によりますが、少なくとも監視ツールの判断は「離席」です。
仕事以外のことを考えながらPCの前でお菓子を食べていても、離席ではありません。
仕事のことを考えながらコーヒーをいれ、5分以上かかったら離席です。
お腹が痛くてお手洗いから出られない! 5分以内に席に戻れるだろうか、気が気ではありませんね。
では、オフィスだったらどうでしょうか。
会社では咎められずテレワークでは疑われる離席
筆者が勤務していた会社では、昼休み以外の休憩は各々の好きなタイミングでとっていました。
集中力が切れたら敷地内を散歩したり、売店でガリガリ君を買って食べたり、喫煙室でディスカッションしながらタバコを吸う人もいました。
席を離れる部下を見て、上司は「何分で戻る?」なんて、束縛の強い恋人のような質問をしません。「何分間タバコ吸ってた?」とも訊きません。
お腹が痛くてトイレにこもっていた社員に「何時間かかっているんだ!」と声を荒げる上司もいませんね。当然です。
子どもの保育園から電話がかかってきたから、廊下に出て通話する。これも問題なしです。
オフィスでは問題ないことでも、テレワーク中の社員は「サボりだと疑われるのではないか」と気にしてしまいます。
ストレスで苦しむ社員、不満を持ち始める社員もいるかもしれません。
監視は悪なのか
サボらず真面目に仕事していれば、疑われることはありません。たとえ疑われても「サボっていません」と断言できます。
筆者はフリーランスとして時給制の仕事をしたことがあり、業務中はPC画面のランダムキャプチャで監視されました。
はじめは「イヤな感じ……」と思っていたのですが、仕事がスタートするとランダムキャプチャのことなど考える余裕がなくなりました。
サボれるほど暇ではなく、サボれば報酬が消えます。
会社員の雇用契約とは異なり、フリーランスの業務委託契約はあっさりと解除されます。
サボりの疑いがあっても、クライアントは「◯分以上の離席はしないで」と注意してくれません。次回の更新がなくなるだけ。釈明の余地もありません。
真面目に仕事する以外の選択肢はないのです。でも、それゆえ監視も怖くありません。
たとえ東京卍リベンジャーズ(漫画版)のデスクトップピクチャが見えてしまっても、問題ありません。仕事は真面目にやっているのですから。
過度な監視は避けるべきですが、監視は社員にとってのメリットもあり、必ずしも「悪」ではありません。
また、真面目に仕事している皆さんが過剰に気にする必要はないのです。
もしも上司から注意されたら、納得いくまで話をして、不満を残さないようにしましょう。
監視ツールの存在はなぜストレスなのか
Microsoft Teamsは、「離席」に切り替わったかどうかを社員自身が確認できます。
しかし画面キャプチャは、どの瞬間・どの画像が記録されているか、社員はわかりません。
マウスやキーボードの操作ログも同様です。いつ、どのタイミングでログが記録されたかわからないのです。
こうした「よくわからないもの」を証拠として、サボり認定されているのではないか。
どんなに真面目に仕事しても、監視が続く限り不安も続くでしょう。
サボっていない人ほど、監視ツールがストレスになります。ストレスの根源にあるのは「不安」です。
不安を軽減する方法は、「よくわからないもの」をなくすことです。
監視に対する不安を軽減する方法
人影や聞こえるはずのない声に、人は恐怖・不安を覚えます。得体のしれないものは人の不安を煽ります。
それなら得体を知ればいいのです。
監視についてもサボりについても、曖昧なことがとにかく多すぎる! 曖昧な部分を潰し、見通しをよくすることが大切です。
曖昧さがなくなれば、監視に対する不安も不満も、ある程度軽減できます。
仕事とサボりの境界線を明確にする
宅配便が届いたら、仕事の手を止めて対応していいのか。ガス点検に立ち会うために15分くらい離席したが、サボりに含まれるのか。
常識的に考えればわかるよね、と言われそうなことだとしても、常識自体にズレがあっては困ります。
テレワークではどういった働き方が求められるのか、どういった行動は「働く」に含まれないのか、上司と話し合い、明確にしておきましょう。
離席予定を予め伝えておき、その分は定時以降に対応するのか。「席を外します」と都度チャットで送ればいいのか。
職場内でルールが決まっていれば安心できます。
管理ツールの監視機能を使う目的を知っておく
監視ツール、あるいは「監視していると思わせるツール」を導入する際は、社員への説明が必須となっています。
なぜ監視する必要があるのか。十分な説明を受けていない場合は、導入目的や社員にとってのメリットを上司に確認してみましょう。
たとえば、監視ツールによって隠れ残業を防止することは、社員にとって大きなメリットです。
なぜマウスの動きを監視するのか、なぜキャプチャをランダムに撮るのか。
これらの記録はどんなときに、誰が見るのか。そこから何を判断するのか。
気になることは質問し、納得したうえで運用に協力することが重要です。
テレワーク中の「不安」は早めに解消
テレワーク中は、仕事上のちょっとした困りごとを同僚に打ち明ける機会がなく、不安は解消されないまま増大していきます。
仕事をすすめるうえでも、またメンタルヘルスを保つうえでも、こうした状況を放置するのはよくありません。
上司に直接質問しにくい場合は、同僚や先輩に話してみましょう。
コミュニケーションツールは必ずしもクローズドとは限りません。オープンスペースでこうした話題を持ち出すことに抵抗があるかたもいるはずです。
その場合は、社内のメンタルヘルス窓口に相談してみてください。
長引く不安によって、メンタルヘルスを損なう可能性があります。決して大袈裟なことではありません。
見通しのいいテレワーク環境で、気持ちよく業務に励んでください!