REMO-zineではこれまで2回に渡り、インボイス制度について解説してきました。
インボイス制度は免税事業者・免税事業者と取引をする課税事業者にとって負担が大きいことから、導入に対する否定的な意見が少なくありません。
こうした意見を踏まえ、政府は制度の早期定着を目的にした特別措置を導入する方向で調整を進めています。
しかし特別措置が誰のための措置であり、どんなメリット・デメリットがあるのか非常にわかりにくい!
今回は「特別措置」の内容について、具体的な計算を交えながら詳しくご紹介します!
なお、インボイスの基本については以下の2記事からご確認いただけます。
インボイス制度導入による負担を軽減する3つの特別措置
インボイス制度導入により、私たちフリーランスは様々な「負担増」に直面する可能性があります。
そこで政府は、期間を定めたうえで3つの特別措置(軽減・経過措置)を設けるとしています。
- 納税額の軽減措置
- 事務手続きの軽減措置
- 仕入税額控除の軽減措置
なお国税庁は「インボイス特設サイト」を開設していますが、特別措置についての方針が決定していない現状、まとまった情報は掲載されていません。
「お問合せの多いご質問(随時更新)」には比較的有益な情報がまとまっている印象ですので、併せてご覧になってくださいね!
納税額の軽減措置
特別措置の1つ目として、インボイス制度導入により金銭的な負担が増加する事業者に対し、納税額の軽減措置が取られます。
フリーランスにとってインボイス制度開始による最大の懸念事項は、金銭的負担が増えることでしょう。
これまで納税義務がなかった事業者の中には、制度導入に伴って課税事業者にならざるを得ない人がいます。
その人たちにとって消費税の納税は、非常に大きな負担です。
こうした事業者の負担を少しでも軽くするために、以下のような特別措置が検討されています。
措置の概要
- 軽減措置の対象:インボイス制度開始に伴い、新たに課税事業者にならなければならない人
- 措置適用の期間:2023年10月から3年間
適用されるとどうなる?
納税額の計算方法は2種類ありますが、経過措置によって計算方法が1つ増えて3つになります。
以下は従来の計算方法です。
- 本則課税=売上にかかる消費税ー仕入にかかる消費税
- 簡易課税=売上にかかる消費税ー(売上にかかる消費税×みなし仕入率)
簡易課税では、仕入にかかる消費税額のかわりに「みなし仕入率」という数字を用いて納税額を算出します。
そして今回、新たな軽減措置が検討されたことによって、計算方法が増えました。
- 本則課税=売上にかかる消費税ー仕入にかかる消費税
- 簡易課税=売上にかかる消費税ー(売上にかかる消費税×みなし仕入率)
- インボイス制度開始から3年間の軽減措置=売上にかかる消費税×20%
※以降の消費税率は10%で算出しています。
例)売上が500万円・仕入れが150万円の場合
売上・仕入れにかかる消費税額は以下の通りです。
- 売上500万円→消費税50万円
- 仕入150万円→消費税15万円
では本則課税を用いた場合と軽減措置を適用した場合、ふたつの納税額を見比べてみましょう。
①本則課税
=売上にかかる消費税ー仕入にかかる消費税
=50万円ー15万円
=35万円
③軽減措置適用
=売上にかかる消費税×20%
=50万円×20%
=10万円
軽減措置が適用されることで、納税しなければならない消費税を約3分の1にまで抑えることができました。
軽減措置のメリットは金銭面の負担が減ることだけではありません。
「一律20%」となることで納税額算出にかかる事務的な負担軽減も期待されています。
どの計算方法が1番お得?
軽減措置が適用されると、消費税の計算方法がひとつ増えることになります。
実際のところ、納税額が最も低く抑えられるのはどの計算方法でしょうか。
例)売上が500万円・仕入れが150万円の場合
売上・仕入れにかかる消費税額は以下の通りです。
- 売上500万円→消費税50万円
- 仕入150万円→消費税15万円
さきほどの金額を例に、納税額をそれぞれ算出してみます。
①本則課税
=売上にかかる消費税ー仕入にかかる消費税
=50万円ー15万円
=35万円
②簡易課税※1
=売上にかかる消費税ー(売上にかかる消費税×みなし仕入率)
=50万円ー(50万円×50%)
=25万円
③軽減措置適用
=売上にかかる消費税×20%
=50万円×20%
=10万円
※1:②では第5種事業(サービス業など)のみなし仕入率50%を用いています。
今回のシミュレーションで最も納税額が低かったのは、③軽減措置の計算方法でした。
ただし、必ずしも同じ結果になるとは限りません。
たとえばみなし仕入率が90%の第1種事業に当てはまる場合、簡易課税制度を適用した場合の納税額は5万円と、1番安くなります。
つまり計算結果は、仕入額やみなし仕入率によって左右されるということです。
インボイス制度導入後の消費税計算は、上記3つの中から自分で選択できるようになるだろうと予想されています。
そのため事業者は、この中から自分が最も損をしない方法で納税額を算出しなければなりません。
計算方法変更には届け出が必要になるかも!?
好きなタイミングで計算方法を自由に変更できるというわけではありません。
たとえば②簡易課税制度の適用を受ける場合には、管轄の税務署へ「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出する必要があります。
同じように、この軽減措置適用においても書面などの提出が必要になる可能性があります。
事務手続きの軽減措置
2つ目は、事務手続きの軽減措置です。
インボイス制度導入による負担は、金銭面だけではありません。書面の交付に関連した手続きも増加します。
特に制度導入に合わせて課税事業者になるフリーランスなど、小規模事業者にとってはこの事務的な手続きが大きな負担になるでしょう。
期間限定ではありますが、この負担を軽減する措置も検討されています。
措置の概要
- 軽減措置の対象:課税売上高が1億円以下の事業者
- 措置適用の期間:2023年10月から6年間
適用されるとどうなる?
事務手続きの軽減措置により、1万円以下の少額取引(仕入れ)に関して2点の負担が軽減する見込みです。
- インボイス発行なしで仕入税額控除可能(ただし帳簿の保存は必須)
- 返還インボイス※2の発行も不要
なお、返還インボイス発行不要については2022年12月10日現在、適用期限は設定されていません。
売上にかかる対価の返還などが発生した場合に発行が義務付けられている書面のことです。
「売上にかかる対価の返還」とは、商品の値引きや返品のほか、売上割引・販売奨励金・事業分量配当金などを含みます。
仕入税額控除の経過措置
インボイス制度が導入されると、適格請求書が発行された取引のみが仕入税額控除の対象です。
しかし、一定期間は適格請求書がなくても仕入税額控除を受けられるようになります。これが3つ目の経過措置です。
インボイス導入の2023年10月以降、免税事業者と取引をした分については仕入税額控除が受けられなくなります。
- 課税事業者との取引:仕入税額控除の対象
- 免税事業者との取引:仕入税額控除が受けられない!
すべての取引先が課税事業者であれば問題ありませんが、免税事業者との取引を継続する場合もあるでしょう。
「免税事業者と取引をしている課税事業者」に対する措置として、一定期間はインボイスなしでも仕入税額控除を受けられる※3ようになります。
※3:ただしこの措置を適用して仕入税額控除を受ける場合は、その旨を帳簿に記載しなければなりません。
措置の概要
- 経過措置の対象:免税事業者との取引がある課税事業者
- 措置適用の期間:2023年10月から6年間
3年経過した段階で控除の範囲が変わります。
- 2023年10月1日〜2026年9月30日:免税事業者からの仕入について、80%の仕入税額控除が可能
- 2026年10月1日〜2029年9月30日:免税事業者からの仕入について、50%の仕入税額控除が可能
適用されるとどうなる?
ではここでも、何度も登場している以下の例を使って確認しておきましょう。
例)売上が500万円・仕入れが150万円の場合
売上・仕入れにかかる消費税額は以下の通りです。
- 売上500万円→消費税50万円
- 仕入150万円→消費税15万円
仕入先が免税事業者だった場合、それぞれの期間において以下の金額を控除することができます。
- ①の期間中:15万円×80%=12万円
- ②の期間中:15万円×50%=7.5万円
つまりその場合の納税額は、それぞれ以下のようになります。
①の期間
50万円ー(15万円×80%)
=38万円
②の期間
50万円ー(15万円×50%)
=42.5万円
この経過措置が適用されるのは、消費税額計算に仕入税額を用いる事業者のみです。
本則課税、つまり1番スタンダードな税額計算(売上にかかる消費税-仕入にかかる消費税)をしている課税事業者が対象ということになります。
制度開始前に特例措置も必ずチェック!
インボイス制度の導入に伴い、私たちフリーランスの中には課税事業者への転向を余儀なくされる方がいるかもしれません。
また免税事業者との契約を見直さなければならない事業者も少なくないはずです。
双方にとってインボイス制度の経過措置は大きな助けになるでしょう。
今回ご紹介した特別措置の内容は、2022年12月中旬頃に取りまとめが予定されている与党税制改正大綱に詳細が記載される見込みです。
2023年10月以降、急激な負担増加で苦しまないためには、措置の内容を理解すると同時に自分がこれらの対象になるのか必ず確認しておきましょう。
REMO-zineではインボイス制度について引き続き状況を追ってまいります!