フリーランスという働き方には「free=自由」というイメージが常に寄り添っています。しかしフリーランスの「フリー」は自由を示しているわけではないようです。
「フリーランス」とは法令上の用語ではなく、定義は様々であるが、本ガイドラインにおける「フリーランス」とは、実店舗がなく、雇人もいない自営業主や一人社長であって、自身の経験や知識、スキルを活用して収入を得る者を指すこととする。
経済産業省 「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン https://www.meti.go.jp/press/2020/03/20210326005/20210326005-1.pdf
雇い主に縛られず、時間的・場所的な拘束を受けず自発的に仕事を獲得するのがフリーランス。「フリー」といっても独立や非拘束の意味合いが強いんですね。個人事業主という言葉がしっくりきます。
メリットばかり紹介されがちなフリーランス、実は多くのデメリットが存在します。フリーランスへの転向を考えている方は、働き方におけるデメリットにしっかり目を向けておきましょう。
フリーランスのデメリット〜お金編〜
よく知られているデメリットとして収入の不安定さが挙げられますが、実際にフリーランスに転向すると、これ以外にもお金にまつわるデメリットが出てきます。
- 朝から晩まで働けば収入はどんどん増える!
- 自由に休暇が取れるのがメリットだよね
- 買ったものは経費にできるからオトク
一部はその通り、しかし大部分は勘違いかもしれませんよ……。
収入が不安定で突然ゼロになることもある
業務委託の請負契約の場合、成果物をたくさん納品すれば収入が増えます。しかし請負契約を結んだからといって、いつでもたくさん納品できるわけではありません。
- 大量に仕事があるとは限らない
- 効率が悪い(時給換算で唖然とする)
- 人はそんなに働けない
安い単価でも大量に納品すればいいじゃないか!という考えは確かにその通りです。しかしクライアントの予算は無限ではありません。「もう仕事(予算)がないんです」と言われたらパタリと収入が途絶えてしまいます。
もし受けられる案件が大量にあったとして、1日20時間の仕事を1ヶ月間休みなく続けられるでしょうか。現実的ではありません。
基本的に休業補償が受けられないフリーランスですから、体を壊せば収入ゼロ。体調管理も仕事の一部です。
何より、クライアント側の都合で突然仕事が終わるリスクがあり、努力ではどうすることもできません。
多くのフリーランスが複数のクライアントと契約し、収入変動のリスクを減らしています。
有給休暇はない
当たり前ですね!大前提としてフリーランスには労働基準法が適用されません。
労働者として事業主に雇用されて働く場合と異なり、労働基準法(以下「労基法」という。)などの保護が無いため、もしものときに備えておくことが大切です。
かながわ労働センター 「フリーランスで働くときは」 https://www.pref.kanagawa.jp/documents/5081/kh60.pdf
有給休暇は労働基準法で定められているため、フリーランスには縁のない制度だといえます。
業務委託の準委任契約で突発の休暇を取る場合、契約時間を下回ると収入が減りますが別の日に穴埋め可能なことも。しかしある程度まとまった日数休む場合は穴埋めが難しいでしょう。
毎月の収入が安定しやすい準委任契約ですが、休暇によって収入が変動する可能性があるのです。
筆者が経験した準委任では「休みます」という申告が不要でした。契約範囲の仕事をやってくれたらそれでいい、とのこと。
裏を返せば、休暇の有無に関わらずクライアントが求める成果が出なければあっという間に契約解除になるということです。
ちょっとした経費が積み重なっていく
経費は控除対象になるだけで、何も得することはありません。自分のお財布からお金が出ていきます。ワークデスクやPCといった初期投資以外にもチョコチョコと出費があるんです。
例えば電話。クライアントとLINE電話できる間柄なら無料ですが、そうでなければ通話料がかかります。インターネットの通信量は毎月の出費です。経理ソフトにもお金がかかります。
意外と高額なのがPCのソフトウェア!筆者はPhotoshopを持っておらず、それに代わる無料ソフトを長いこと使っています。しかしクライアントによっては「Photoshopを使っている方」という条件で案件を出していることがあるんです。
同じようにMicrosoft Word/Excelが条件に入っていることがよくあります。互換ソフトOKのケースもありますが、文字化けやレイアウト崩れのリスクを考えてインストール型のMS Office限定(しかも20◯◯以降という指定!)という条件も少なくありません。
最近はクラウドストレージがパンパン!という声も聞きます。有償ストレージは月額(年額で値引き)の出費です。
買い切りソフトはできるだけ新しいバージョンを購入しましょう!
フリーランスのデメリット〜働き方・案件編〜
「フリー」という言葉が使われているからでしょうか、自由度の高さにフォーカスされやすいフリーランスという働き方。
- フリーランスになればフルリモートでしょ
- 稼働時間はフリー!
- フリーランス仲間ができる
- 報酬の交渉ってプロ野球選手みたい
一部はその通り、しかし大部分は勘違いかもしれませんよ……。
働く時間や場所に制限がかかることもある
フリーランス=フルリモートではないんです!仕事はいつやってもOKではないんです!
請負契約の場合はリモートかつ稼働時間自由の案件が多く、自分のペースで仕事を進めることができます。しかし準委任の場合は自由度が確保されないことがあります。
例えばエンジニアの常駐案件は出社が必要です。基本的にクライアントの業務時間に合わせるので時間に制限がかかります。
また筆者の経験でいうと、マネージャー業務で週3日出社していたことがあります。リモートワークに戻ってからも業務によってはオフィスの稼働時間に合わせる必要がありました。
職種や契約形態・条件によっては何もかも「フリー」になるとは限らないのです。
未経験者が生活できるレベルになるには時間がかかる
「未経験可」のフリーランス案件に経験者と未経験者が応募してきたら、クライアントは経験者に依頼するでしょう。フリーランスを育てることにコストをかけたくない、つまり即戦力がほしいんです。
企業が業務を正社員にやらせず外注する理由を考えてみましょう。
社員教育には「時間=教育コスト」がかかります。一方高いスキルを持つフリーランスなら教育の必要がなく即戦力。さらに固定的な人件費(社会保険料や退職金等)がかかりません。
必要とするスキルを得るまでの総コストを考えると、少し高めの報酬を支払ったとしてもフリーランスの方がローコストなんです。
未経験フリーランスは仕事を理解させるまでの時間・コストがかかります。そのため「未経験可」の案件は、説明コストを差し引いた低い単価で設定されていることが多いのです。
スキルアップの時間も費用も自分で捻出
高単価案件を獲得するために持っておきたいスキル。会社員なら社内研修でスキルアップできますし、社外研修や書籍購入に補助が出ることもあります。
フリーランスは自腹でスクールに通うか独学か、低単価案件をたくさん受託してレベルアップを図ることになるでしょう。これがなかなか難しい!
スクールに通うには金銭的負担と時間が必要です。スキルを学ぶ系のスクールは課題だって盛りだくさん。オンラインの無料講座は「ざっくり」な内容が多い印象です。
実際の案件をこなして力をつけるのが確実ではありますが、案件のどこがポイントでクライアントは何を求めているのか的確に把握できていなければスキルアップにつながりません。
クライアントが変わっても応用がきくスキルを身に着けたいですね。
孤独
個人で仕事をするわけですから基本的に孤独です。フリーランス同士の交流がほしい人はSNSなどでコミュニティを探すことになります。
例外として、常駐や出社案件なら同僚と一緒に仕事をすることになりますね。
在宅フリーランスは特に孤独な存在です。チャットで業務連絡をするだけの毎日。雑談が発生するとすればオンラインミーティングのアイスブレイクぐらいでしょうか。
クライアントと対等にはなりにくい
フリーランスとクライアントは対等な立場だ、というのが一般的な認識ではないでしょうか。しかし残念ながら、委託側のクライアントと受託側のフリーランスの間にはまだまだ上下関係が存在します。
筆者の経験をお話しますと……。
- 契約書がクライアント側に有利すぎると指摘→ではこの話は白紙で!と言われる。
- 仕事内容が変わったから契約し直したい→必要ないと言われる。
- 成果を出しているので単価を上げてほしい→上げる代わりに付帯業務もやってと言われる。
フリーランスの契約は、双方不満なら契約しないというのがセオリーです。しかし契約解除となれば一気に収入を失うため、クライアントの意向に従うしかありません。
契約歴が長くなり重要な業務を受託する立場になると、ある程度こちらの言い分を飲んでもらえるようになります。それでも「対等」には程遠い印象です。
フリーランスのデメリット〜税金編〜
フリーランスのデメリットとして挙がりやすいのが確定申告です。会社がやってくれていたことを自分でやらなければいけません。
「◯◯会計」「マネー◯◯」などの会計ソフトを使えば簡単!という広告を目にすると簡単なのだろうと信じてしまいますね。信じてはいけません。
確定申告が大変!
会計ソフトに何を入力するかというと支出と収入、仮払い状態のものは入金・出金した場合の振替登録です。簡単ですね!字面としては!
フリーランスの報酬は「発生しているけれどまだ手元にお金が入っていない」という売掛金の状態に一旦移行し、入金されたらその処理をします。
報酬と立替費用が一緒に入金され、振込手数料が引かれていたら……。もう大混乱です。正しい記入方法を調べ、自分なりの記入ルールを決めておく必要があります。
1年分の記入が済み確定申告の手続きを始めたものの、計算が合わずにアラートが出る。大混乱です。しかし自分で解決する以外方法はありません。特に青色申告は複雑です。
税理士に依頼する手も。しかし売上が霞むほど費用がかかることもあります。
税金を支払うのは自分
所得税については確定申告の期限日までに支払うのが原則です。うっかり支払い忘れることはほとんどないでしょう。
通常、確定申告の期限は3月15日。所得税の納付のお知らせが届き支払いを終えると「やりきった感」が得られるわけなのですが……。
6月になると分厚い封筒が手元に届きます。これこそが忘れた頃にやってくる度No.1「住民税」の納付書です。さらにこの頃もう1つ、国民健康保険料の納付書が入った分厚い封筒が届きます。
会社員ならこれらの支払いが毎月の給与から自動的に行われていました。フリーランスはこれらの支払いと向き合わなくてはなりません。
手元に入ったお金を全て使ってしまうと、夏を前にして冷や汗をかくことになります。
たくさんのフリーランスに話を聞いてみよう
フリーランスの多くの方が締結する業務委託契約には、請負や委任・準委任といった種別があります。
とある場面では請負の方が自由度が高く、別の場面では自由度が低い、というように様々な要因で自由・不自由が入れ替わります。
フリーランス転向を考えている方は、ぜひ多くのフリーランサーの話を聞いてみてください。デメリットに対してどのように対応しているのか聞いておくといいでしょう。
またデメリットを上回るほどの大きなメリットがあるなら、ぜひ知っておきたいですね!