妊娠・出産は、女性にとって大きなライフイベントのひとつ。
とても幸福なイベントである一方、仕事をお休みしても大丈夫だろうか? 産後も働き続けられるだろうか? と、不安を感じる人も多いでしょう。
今回は半年ほど前に出産を経験した筆者が、「フリーランスと出産」を様々な面から解説します。
フリーランスの妊娠・出産は大変!?
フリーランスと会社員の出産を比較して「どちらのほうが大変」ということはありません。
しかし、確実にいえることがあります。
フリーランスは会社員と比べて、受け取れるお金や利用できる制度が少ない!
まずフリーランスには産休・育休という制度がありません。働くも休むも、すべて自分の判断次第です。
産前・産後は職業にかかわらず休めばいいじゃないか! と思う人もいるでしょう。特にフリーランスはいつでも、いつまででも休めるじゃないか、と。
労働者は(条件付きですが)出産手当金や育児休業給付金が受け取れます。つまり会社員は仕事を休んでいる期間中も、(金額は少し下がりますが)収入があるということ。
一方、フリーランスは休んでいる間の収入が0円です。
金額が減っても継続収入がある会社員と、無収入になってしまうフリーランスとは大きな違いがあります。
フリーランスでも利用できる出産・育児関連制度
フリーランスの多くが不安を感じる、金銭面の問題。
出産手当や育休手当といった休業期間に対する補償は、雇用されている労働者のみが受給対象です。
しかし、フリーランスへの助成制度が一切ないかというと、そうではありません。
- 出産育児一時金:42万円
- 妊婦健診費用の助成:約10万円
- 国民年金保険料免除:約6.5万円
- 児童手当:約200万円
妊娠中から出産後まで、雇用形態に関係なく利用できる制度をご紹介します。
出産育児一時金
出産育児一時金
出産の経済的負担を軽減するため、一律で42万円※支給する制度。
※在胎週数により変動あり
一度にまとまったお金が必要なのが、出産時。
分娩費用、そして入院費用の負担を減らしてくれるのが、出産育児一時金です。全員一律で42万円が支給されます。
筆者の場合はこの一時金のおかげで、出産時の自己負担額が15万円程度で済みました。
さらに直接支払制度(健康保険から病院へ直接一時金を支払う仕組み)に対応している病院なら、退院時に大金を用意する必要がありません。
一時金42万円を差し引いた差額だけを窓口で支払えばOKです。
妊婦検診費用の助成
妊婦健康診査費用の補助
基本的な妊婦健診と、健診にともなう自費検査の費用を自治体が一定額補助する制度。
自治体によって金額や補助形式が異なる(補助券形式が一般的)。
こちらは妊娠中の検診費用の負担を軽減する制度です。
妊娠してから出産まで少なくとも毎月1回、合計で14~16回程度は妊婦健診を受診します。「妊娠は病気ではない」とされるので妊婦健診は保険適用外!
すべての検診費用を自己負担すると、およそ10万円~15万円近くかかるといわれています。1回1万円近い計算ですね。
仕事を休んで収入が途絶えたのに、1回の検診で1万円の出費……という状況が、補助金のおかげで回避できます。
補助金額は自治体によって異なる
補助金の金額や回数は自治体によって異なります。平成30年に厚生労働省が実施した調査※によると、検診補助金の全国平均は10万5,734円でした。
この制度を利用しても自己負担が完全無料になるわけではありませんが、かなり安く抑えられることがわかります。
検診・検査内容によって自己負担額は変わりますが、筆者の場合は窓口負担が0円で済んだことも何度かありました。
※参考:妊婦健康診査の公費負担の状況について(平成30年4月1日現在)
https://www.mhlw.go.jp/content/11908000/000552443.pdf
国民年金保険料免除
出産予定月の前月から4か月間、年金保険料の支払いが免除されます(双子など多胎妊娠の場合は、出産予定月の3か月前から6か月間免除)。
たとえば出産予定月が9月だった場合は、8月〜11月分(多胎妊娠の場合は6月〜11月分)の支払いが免除されるということです。
令和4年の年金保険料は1か月あたり16,590円ですから、4か月分だと「66,360円」の支払いが免除されます。
ちなみにこの期間中も「保険料を納付した」とみなされるので、将来受け取れる年金額に影響はありません。
児童手当
児童手当は出産後に受給できるお金です。
親の所得による制限がない場合、子どもが中学校を卒業するまで毎月以下の金額が支給されます。
- 3歳未満:15,000円
- 3歳~小学校卒業まで:10,000円(第3子以降の場合は15,000円)
- 中学生:10,000円
総額は200万円近くにのぼるといわれています!
やっておけばよかった!フリーランスの出産準備
筆者は出産準備について、いくつか失敗したと感じていることがあります。
出産後のいまだからこそ感じる、「やっておけばよかった!フリーランスの出産準備」をご紹介します。
貯金は大切!
休業中の収入を支える手当がないフリーランスは、産前産後に完全無収入の期間が発生します。
この間、生活に困らない程度の貯金をしておくことが大切です。
貯金額の目安は、働けない期間の見込み所得と同程度。
例)所得20万円/月のフリーランスの場合
2022年9月1日が出産予定日、妊娠37週から産後6か月は休業する予定。
休業期間:約6.5か月(2022年8月11日〜2023年3月1日)
失う収入:20万円×6.5か月=130万円!
つまり上記の場合、産前産後に安心して仕事を休むためには130万円程度の備えがあると安心、ということです。
もし配偶者や同居家族の収入で生活できるとしても、子どもが産まれると想像以上に出費が増えるため、貯金をしていて損することはありません。
筆者は子育てに必要なお金の見積もりが甘かったため、もう少し余裕を持って貯金をしておけばよかったと少し後悔しています。
クライアントとの関係構築も早めに
出産前後は「お休み」の形が取れるのか、もしくは契約解除になるのか、あらかじめクライアントに確認しておきましょう。
フリーランスに「産休・育休」はありませんが、クライアント側の状況や契約の継続年数・信頼関係など様々な要因で、契約継続できることがあります。
安定期に入ったら早い段階からクライアントへ相談しておくことが大切です。
- 産前産後に休みをもらえるのか
- 状況が落ち着いたら復帰させてもらえるのか 等
筆者は妊娠初期に「稼働が落ちるなら仕事をお願いできない」と、クライアントとの契約が継続できなかった経験があります。
ちなみに現在は、こちらの状況を受け入れて契約を継続してくれたクライアントのもとで仕事を継続できています。
フリーランスの産前産後の過ごし方
ここからは自身の経験をもとに、産前産後の過ごし方をご紹介します。
※あくまでも筆者自身の考えであり、全てのフリーランスに強制するものではありません。
仕事は遅くても37週くらいを目途にお休みへ…
妊娠中は、何が起こるかわかりません。
「産まれるのはまだ先だろう」と思っていても、突然状況が変わる可能性があることも考えて、筆者自身は37週※から自主的に産休へ入ることを決めていました。
何事もなければ出産直前まで働けるかもしれません。
しかし、案件にとりかかっている途中で出産を迎えた場合、クライアントにも迷惑がかかります。
中途半端な状態で仕事を休むことは避けたかったので、このような判断をしました。
※筆者は経過が順調だったため37週を目安にしましたが、医師からの安静指示や仕事を控えるように言われている場合などは、無理せず早めにお休みを取ってくださいね。
産後は休むべし!
労働基準法では、産後8週間が経過しないと就労できないと定められています(医師の許可が下りた場合は6週間後から復帰可能)。
ただしこれが適用されるのは、会社員やパートのような労働者のみ。フリーランスは産後いつから働いても問題ありません。
極端な例ですが、出産翌日からすぐに働いても法律違反にはならないということです。
少なくとも6週間はゆっくり過ごして
産後の身体は「全治1か月のケガを負った状態」といわれることもあるくらい、大きなダメージを受けています。
それに加え、まとまった睡眠をとれない日々が続くため、想像以上に体力を消耗します。
その状態で仕事をしても良いパフォーマンスは発揮できませんし、身体も回復しません。
労働者と同じくせめて6週間は、育児と自分自身の休養のために時間を使うことをおすすめします。
体力回復と生活リズムを目安に
ちなみに筆者が仕事に復帰したのは、産後2か月頃。
自分自身の体力が戻ってきたこと、そして育児にも少しずつ慣れて生活のペースがつかめてきたことをきっかけに、仕事を少しずつ再開しました。
もちろん完全復帰!というわけではなく、育児を中心とした日々の生活を崩さないよう調整しながら、現在も仕事を続けています。
フリーランスだからこそ自分に合ったスケジューリングを!
フリーランスは、産前産後も制限なく働けます。しかしそれが必ずしも良いこととは限りません。
収入がないことへの不安、仕事が途切れてしまうことへの不安などから、「ギリギリまで働かなければ!」「なるべく早く復帰しなければ!」と考えてしまう人もいるでしょう。
しかし出産前後の身体は、想像以上に疲れやすい状態です。そしてその疲労も、簡単には回復できません。
だからこそ自主的に産休・育休期間を確保することが重要だと筆者は考えています。
産休や育休が適用されないからこそ、自分の身体と相談しながら自由に休業期間を決められるのはフリーランスのメリットです。
ぜひ産前産後の休業期間は自分自身の身体のこと、そして子どものことを最優先に考えながら過ごしてくださいね。
そしてこの期間中は仕事のことを気にせず過ごせるよう、きちんと準備を整えておきましょう。